震災法律相談Q&A

2011年3月11日に起きた地震や津波に遭われた方々の力になれればと思います(弁護士法人杜協同)

原発事故による風評被害(3)-東海村JCO臨界事件-

Q:前回の敦賀原発風評被害事件に引き続いて、今回も原子力による風評被害についての裁判例を教えて下さい。

A:今日は平成11年9月に発生した東海村JCO臨界事故に起因した2つの風評被害事件についてお話しします。

 

Q:東海村JCO臨界事故とはどのようなものだったのですか。

A:JCOは東海村において軽水炉用低濃縮ウランの再転換工場として操業していたのですが、許容量を超えるウランの投入によって瞬時に臨界状態に達したことから、関係自治体は事故当日に、半径350メートル圏内の住民に避難要請を、また半径10キロメートル圏内の住民に屋内退避要請を出したという事件でした。

 死者2名、被爆者660名を出し、当時は国内最悪の原子力事故と言われました。

 この事故を原因として風評被害が発生したとして訴訟となりました。

 

Q:1つ目の風評被害事件について教えて下さい。

A:東海村のある茨城県は納豆が特産品として有名ですが、本件事故がマスコミ等で大きく報道されたことから、消費者が放射能汚染を心配して納豆商品を買い控えるようになり、売上が大きく減少したとして営業損害分の損害賠償を請求する訴訟になったものです。

 東京地裁平成18年2月27日判決は、次のように判断して風評被害による損害賠償を一定範囲で認めました。

 「本件臨界事故によって消費者が納豆商品を買い控えるなどした結果,納豆業界全体の売上げ

 が減少するという風評被害が生じていたものと認められるのであって,本件臨界事故発生と

 納豆業界全体の売上減少との間には一定限度で相当因果関係があるということができる。」

 「本件臨界事故以後、一般消費者が納豆商品を買い控えるに至ったのは、放射能汚染という

 具体的危険が存在しない商品であるにもかかわらず、それが危険であるとして納豆商品を敬遠

 して買い控えに至るという心理的状態に基づくものであるから、そこには一定の時間的限界があり、

 本件ではそれは事故の発生から2ヶ月間であると認めるのが相当である。」

 

Q:2つ目はどのような事件ですか。

A:東海村で事故場所から3.2キロメートルの地域で、土地買収に着手して宅地造成販売を計画していた会社が、本件臨界事故によって宅地が放射能によって汚染されているという懸念から宅地価格が下落し、当初より減額した価格で売り出さざるを得なくなったとして、価格の下落分を損害賠償請求した訴訟です。

 東京地裁平成16年9月27日判決はこのような土地価格の下落が原子力損害賠償法に基づく賠償の対象になり得ることを認めながらも、本件については次のように述べて請求を棄却しました。

 「本件臨界事故が,東海村の住民に本件土地の放射能汚染のおそれや,被告が再び同様の事故

 を起こすおそれを意識させ,その結果,本件土地の価格の下落が生じたのであれば,その下落は,

 本件臨界事故と相当因果関係のある損害につながるということができるが,本件臨界事故が,

 被告東海営業所が存在することから生じる危険性ではなく,原子力関連施設が存在すること自体

 から生じる一般的な危険性を再認識させることになり,それが本件土地の価格の下落の主たる原因

 であるとすると,原子力関連施設の存在すること自体から生じる危険性は,本件臨界事故の前後を

 通じて変化があったわけではないから,被告が主張するとおり,本件臨界事故と本件土地の価格の下落

 との間に相当因果関係を認めることはできない。

 (そのような一般的な危険性の再認識は,東海村だけに限らず,日本各地の原子力施設の

  存在する土地に同様に生じうる。)」

 

Q:納豆商品については風評被害による損害賠償が認められて、造成宅地についてはそれが否定されたのは何故なのでしょうか。

A:納豆商品の場合には、本件臨界事故に基づく放射能汚染の危険性が消費者の買い控えという心理的状態を招いたことが合理的だと評価できるのに対して、造成宅地の場合には不動産価格設定のファジーさも相まって、本件事故による放射能汚染の危険性が価格の下落を招いたとは評価できないとした結果と思われます。

 

(関弁連編集の「Q&A 災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)及び近弁連編集の「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務研究会)を基にして、解りやすく説明しました。)