震災法律相談Q&A

2011年3月11日に起きた地震や津波に遭われた方々の力になれればと思います(弁護士法人杜協同)

原発事故による風評被害(2)-敦賀原発事件-

Q:原発事故による風評被害に基づく損害賠償請求については、これまでに裁判が出されているのですか。

A:最初の事件は敦賀原発風評被害事件です。

 昭和56年に福井県の敦賀原発からコバルト60を含む放射性物質が、敦賀湾へ漏出する事故が発生し、事故が通商産業省から公表されました。

 マスコミで連日のように報道された結果、集荷自粛を行う県外市場が続出し、敦賀湾の魚介類の価格の暴落・取引量の低迷が続いたことから訴訟になりました。

 名古屋高裁金沢支部平成元年5月17日判決が出されています。

 

Q:事故によって現実に魚介類に放射能汚染が生じていたのですか。

A:上記訴訟で直接的な対象とされたのは、実は石川県の金沢産の魚介類だったのですが、判決は敦賀湾のものについても考え方を示しています。

 放射能汚染については、敦賀湾でとれた魚介類にはほとんど影響はなく、敦賀湾から遠く離れた金沢産の魚介類は無影響だったと認定しています。

 

Q:放射能汚染の影響をほとんど受けていないとすると、まさに風評被害の問題ですね。

 敦賀湾産の魚介類についてはどういう判断がなされたのですか。

A:判決は敦賀湾産の魚介類について次のように述べています。

  「本件事故の発生とその公表及び報道を契機として,敦賀産の魚介類の価格が暴落し,

  取引量の低迷する現象が生じたものであるところ,敦賀湾内の浦底湾に放射能漏れが

  生じた場合,漏出量が数値的には安全でその旨公的発表がなされても,消費者が危険性

  を懸念し,敦賀湾産の魚介類を敬遠したくなる心理は,一般に是認でき,したがって,

  それによる敦賀湾周辺の魚介類の売上減少による関係業者の損害は,一定限度で

  事故と相当因果関係ある損害というべきである。」

 

Q:金沢産の魚介類についてはどういう判断がなされたのですか。

A:金沢産については次のように述べています。

  「事故による影響かどうか必ずしも明らかではないものの,一部売上減少が生じた

  ことが窺われるが,敦賀における消費者が,敦賀湾から遠く離れ,放射能汚染が全く

  考えられない金沢産の魚まで敬遠し,更にはもっと遠隔の物も食べたくないという

  ことになると,かかる心理状態は,一般には是認できるものではなく,事故を契機とする

  消費者の心情的な判断の結果であり,事故の直接の結果とは認めがたい。金沢産の

  魚も心情的には不安であるとの理由で賠償を命ずるものとすれば,金沢における消費

  の低下も是認しなければならなくなり,損害範囲はいたずらに拡大することとなる。」

 

Q:敦賀湾産と金沢産では違う結論になったということでしょうか。

A:風評被害のもとになる消費者心理に理解を示しながらも、損害賠償の範囲をいたずらに拡大させるのは相当でないとして、極めて主観的な心理状態による買い控えとの間にまで相当因果関係があるとはいえないという立場を示したものです。

 

Q:この判決は今回の福島第1原発事故の風評被害にも影響を与えるのでしょうか。

A:原子力損害賠償紛争審査会の第二次指針には賠償の対象として農水産物や観光の風評被害が含まれることになりました。

 その議論の過程において、名古屋高裁金沢支部平成元年5月17日判決における消費者心理の考え方が大きな参考とされたようです。

 

(関弁連編集の「Q&A 災害時の法律実務ハンドブック」(新日本法規)及び近弁連編集の「地震に伴う法律問題Q&A」(商事法務研究会)を基にして、解りやすく説明しました。)